iDeCoと退職金は、受け取る順番と間隔で手取りが変わります
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勤続25年で退職金2,200万円、iDeCoに20年加入して一時金600万円を受け取る人がいるとします。この人が受け取り方を変えるだけで、手元に残る金額は952,419円変わります。
金額そのものは1円も変わりません。変わるのは、受け取る順番と、2つの受け取りの間隔だけです。
差を生んでいるのは、退職所得控除の使え方です。この記事では、その仕組みと、令和8年から変わったルールの正確な中身を、国税庁の説明にもとづいて確認します。
退職所得控除は、受け取るたびにゼロから使えるわけではありません
退職所得控除とは、退職金を一時金で受け取るときに、税金の計算から差し引ける金額のことです。額は勤続年数だけで決まります。
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
1年未満の端数は、切り上げて1年として数えます。
ここで押さえておく必要があるのが、iDeCoの一時金も、税の計算では退職所得として扱われることです。国税庁は、確定拠出年金法にもとづく老齢給付金として支給される一時金なども退職所得とみなされる、と説明しています(国税庁 No.1420)。老齢給付金とは、iDeCoや企業型DCで積み立てた資産を、受給できる年齢に達して受け取るときの給付のことです。
つまり、退職金とiDeCoの一時金は、別々の制度から出るお金でありながら、同じ「退職所得」という箱の中で計算されます。
そして、この控除は受け取るたびにゼロから使えるわけではありません。近い時期に2回受け取ると、勤続期間とiDeCoの加入期間が重なっている分だけ、後から受け取る方の控除が減ります。これを調整計算といいます。
減る幅は小さくありません。この記事の例では、退職金の控除が2,060万円から1,460万円まで下がるケースが出てきます。
何年空ければよいかは、受け取る順番によって違います
調整計算をするかどうかは、「前に受け取った退職手当等が、どれだけ前か」で決まります。そして遡る期間は、受け取る順番によって違います。
| 受け取りの順番 | 遡る期間 | 世間の呼び方 |
|---|---|---|
| iDeCo等が先 → 退職金が後(令和8年1月1日以後に受け取ったiDeCo等) | 前年以前9年内 | 10年ルール |
| iDeCo等が先 → 退職金が後(令和8年1月1日前に受け取ったiDeCo等) | 前年以前4年内 | 5年ルール |
| 退職金が先 → iDeCo等が後 | 前年以前19年内 | 20年ルール |
| 退職金 → 退職金 | 前年以前4年内 | — |
(国税庁 No.2732)
条文の書き方と、世間の呼び方の対応を確認しておきます。条文は「前年以前9年内」です。受け取る年の前年から数えて9年なので、空ける期間としては10年になります。「10年ルール」と呼ばれているのは、この9年内のことです。同じように、「5年ルール」は条文の「前年以前4年内」を指しています。
順番による違いは、次の2点です。
iDeCoを先に受け取る場合は、10年空ければ調整計算はありません。改正前は5年でしたが、令和8年1月1日以後に受け取る分から9年内に変わりました。
退職金を先に受け取る場合は、前年以前19年内です。空ける期間としては20年になります。そして、こちらは今回改正されていません。iDeCoを後にする方が、必要な間隔ははるかに長いことになります。
なお、退職金を2回受け取る場合(前の勤務先と今の勤務先など)は、前年以前4年内です。
改正はすでに適用されています
9年内が適用されるのは、令和8年(2026年)1月1日以後に支払を受けたiDeCo等の一時金です。この日はすでに過ぎているため、これから受け取る人には9年内が適用されます。
4年内が関係するのは、令和8年1月1日より前にiDeCo等の一時金を受け取り済みの人です。その分は、従来どおり4年内で判定されます。
この違いは、金額として表れます。以下の例は、すべて次の前提で計算しています。
この記事の例に共通する前提
- 退職金は、勤続38年で2,000万円、または勤続25年で2,200万円
- iDeCoの一時金は600万円、加入期間は20年
- この人は、勤続期間の中でiDeCoに20年間加入していたものとします
- iDeCoの一時金と退職金以外の所得は考慮しない
- 所得税には復興特別所得税を含む。住民税は10%(市町村民税6% + 道府県民税4%)
- iDeCoは一時金で受け取る(年金形式は扱いません)
60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る(5年空け)という同じ受け取り方でも、iDeCoを受け取った時期によって結論が変わります。
| 退職金の側 | 令和8年1月1日前にiDeCoを受け取っていた場合 | 令和8年1月1日以後に受け取った場合 |
|---|---|---|
| 勤続38年・2,000万円 | 控除2,060万円(満額)→ 税0円 | 控除1,460万円 → 税446,122円 |
| 勤続25年・2,200万円 | 控除1,150万円(満額)→ 税1,160,572円 | 控除550万円 → 税2,112,991円 |
改正前は、5年空ければ「前年以前4年内」の外に出るため、調整計算の対象になりませんでした。改正後は9年内に入るため、対象になります。受け取り方は同じで、時期が違うだけです。
すでにiDeCoを受け取っている人は、その受取年月を確認してください。判定が変わります。
どれだけ違うのか
まず、退職金が控除の範囲に収まる人で、仕組みを見ます。勤続38年・退職金2,000万円・iDeCoの一時金600万円の場合です。
単独で受け取るなら、退職金の控除は勤続38年で2,060万円、iDeCoの控除は加入20年で800万円です。どちらも受け取る金額を上回っています。
| ケース | iDeCoの税 | 退職金の控除 | 退職金の税 | 税の合計 | 手取り |
|---|---|---|---|---|---|
| A 60歳iDeCo → 65歳退職金(5年空け) | 0円 | 1,460万円 | 446,122円 | 446,122円 | 25,553,878円 |
| B 60歳iDeCo → 70歳退職金(10年空け) | 0円 | 2,060万円(満額) | 0円 | 0円 | 26,000,000円 |
| C 65歳退職金 → その後iDeCo | 425,912円 | 2,060万円(満額) | 0円 | 425,912円 | 25,574,088円 |
3つとも、受け取る金額そのものは同じです。ケースBの手取り26,000,000円が、税が引かれる前の金額にあたります。
AとCはほぼ同じ水準で、Bだけが0円です。
ケースAでは、iDeCoが「前年以前9年内」に入るため、調整計算が行われます。重複期間は15年と計算され(理由は次章)、その分の控除相当額600万円が差し引かれて、退職金の控除は2,060万円から1,460万円になります。控除が2,000万円を下回った結果、課税の対象が生まれます。
課税退職所得は(2,000万円 − 1,460万円)× 1/2 で270万円です。所得税は 2,700,000円 × 10% − 97,500円 = 172,500円、これに復興特別所得税を含めて176,122円(1円未満切捨て)。住民税は 2,700,000円 × 10% = 270,000円。税の合計は446,122円という計算になります。
ケースBは、10年空けたことで調整計算がありません。退職金の控除は満額の2,060万円で、退職金2,000万円を上回ります。iDeCoの控除800万円も一時金600万円を上回ります。両方が満額の控除を使えるため、税は0円です。
ケースCは、退職金が先です。退職金の控除は満額の2,060万円で税は0円ですが、後から受け取るiDeCoの側で調整が入ります。退職金の勤続期間から逆算した年数は37年で、iDeCoの加入期間20年をすべて含みます。そのためiDeCoの控除は800万円から0円まで削られ、最低額の80万円が適用されます。課税退職所得は(600万円 − 80万円)× 1/2 で260万円です。所得税は 2,600,000円 × 10% − 97,500円 = 162,500円、これに復興特別所得税を含めて165,912円。住民税は 2,600,000円 × 10% = 260,000円。税の合計は425,912円という計算になります。
次に、退職金が控除を超える人——冒頭に挙げた勤続25年・退職金2,200万円の人を見ます。控除が減った影響が、より大きく出ます。
| ケース | 退職金の控除 | 課税退職所得 | 所得税 | 住民税 | 税の合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 5年空け(調整あり) | 550万円 | 825万円 | 1,287,991円 | 825,000円 | 2,112,991円 |
| B 10年空け(調整なし) | 1,150万円(満額) | 525万円 | 635,572円 | 525,000円 | 1,160,572円 |
所得税の計算は、Aが 8,250,000円 × 23% − 636,000円 = 1,261,500円 に復興特別所得税を含めて1,287,991円、Bが 5,250,000円 × 20% − 427,500円 = 622,500円 に復興特別所得税を含めて635,572円です。
AとBの差は952,419円です。どちらもiDeCoの税は0円なので(加入20年の控除800万円が一時金600万円を上回るため)、この差がそのまま手取りの差になります。冒頭に挙げた金額はこれです。
なお、この1,160,572円は、令和8年1月1日前にiDeCoを受け取っていた場合の税額と同じです。どちらも控除が満額使えるためで、「10年空ける」と「改正前に受け取っていた」は、結果として同じ位置にあります。
収入が控除より少ないと、重複期間は短く計算されます
ケースAで、重複期間が15年になった理由を説明します。
国税庁の説明では、前の退職手当等の収入金額が、その期間に対応する控除額に満たない場合、収入金額から逆算した年数を重複期間とみなすとされています。逆算の算式は次のとおりです。
| 前の退職手当等の収入金額 | 算式 |
|---|---|
| 800万円以下 | 収入金額 ÷ 40万円 |
| 800万円超 | (収入金額 − 800万円)÷ 70万円 + 20 |
1未満の端数は切り捨てます。
ケースAでは、先に受け取ったiDeCoの一時金が600万円です。800万円以下なので、上の段の算式を使います。
600万円 ÷ 40万円 = 15年
この15年が重複期間とみなされます。そして、この15年に対応する控除額 15年 × 40万円 = 600万円 が、後から受け取る退職金の控除から差し引かれます。2,060万円 − 600万円 = 1,460万円 という計算です。
この逆算は、受け取る側に有利に働くことがあります。この人のiDeCoの加入期間は20年ですが、重複期間として使われるのは15年です。実際の加入期間より5年分短く計算されるため、退職金の控除の目減りもその分小さくなります。
一方、ケースCでは逆になりました。先に受け取った退職金2,000万円は800万円を超えるため、下の段の算式で逆算すると37年です。これはiDeCoの加入期間20年をすべて含むので、重複期間は20年、つまり加入期間の全部になります。先に受け取る金額が大きいほど、逆算される年数は長くなり、後から受け取る方の控除は削られやすくなります。
→ 退職金そのものの受け取り方(一時金・年金・併用)の手取り比較は、「退職金は一時金と年金どっちで受け取るか」の計算ツールで試せます。
自分の数字はどこに書いてあるか
この記事の計算を自分の数字に置き換えるには、3つの情報が必要です。
1. iDeCoの加入期間と、一時金の見込額
運営管理機関(証券会社など)の口座画面で確認できます。年1回届く「取引状況のお知らせ」にも記載されています。控除の額を決めるのは加入期間なので、両方が必要です。
2. 退職金の額と勤続年数
退職金規程、または会社から届く選択届に記載されています。記載がなければ人事部門に確認してください。
3. すでに受け取ったiDeCo等がある場合は、その受取年月
経過措置の判定に使います。令和8年1月1日より前か後かで、遡る期間が4年内か9年内かに分かれます。年だけでなく月まで確認してください。
やらない方がいい人と、この記事で扱わないこと
何も確認せずに、60歳でiDeCoを受け取り、その数年後に退職金を受け取ることは、おすすめできません。控除が重なって目減りするためです。勤続25年・退職金2,200万円の例では、5年空けと10年空けで税が952,419円変わる計算になりました。少なくとも、自分の勤続年数と控除額を確認してから決める必要があります。
逆に、10年空けるためだけに受け取りを遅らせることも、おすすめできません。iDeCoは受け取りを遅らせている間も運用が続きますが、口座管理手数料もかかり続けます。また、iDeCoの受給開始には年齢の上限があります。この記事は税の観点だけを扱っており、これらの費用や期限は計算に含めていません。税で得られる差と、遅らせることで生じる費用や制約を、あわせて確認してください。
この記事で扱わないこと
- iDeCoを年金形式で受け取る場合(公的年金等の雑所得となり、計算が変わります)
- 企業型DCと企業年金(DB)を併せて受け取る場合
- 受給開始の年齢上限や口座管理手数料など、税以外の判断材料
- 勤続5年以下の場合、および役員等の場合の取り扱い
いずれも、この記事の計算をそのまま当てはめないでください。
なお、退職金そのものを一時金と年金のどちらで受け取るかは、別の記事「退職金は一時金と年金どっちで受け取るか」で扱っています。この記事は、そこで「別の記事で扱います」とした、iDeCo・企業型DCとの控除の調整にあたります。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」
- 地方税法 第328条の3・第50条の4(退職所得の分離課税の税率)
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